⑤ペンタさんの☆☆を取り戻すマジカルダイアログ
「どうぞ」と声をかけると部屋に入って来たのは、中肉中背、20代後半ぐらいの青年だった。
ニコっと笑う顔が好印象で爽やかだ。
~今日のお客様~
・シャイニングネーム 『ペンタ』 さん
・年齢30歳 ・男性 ・未婚 ・失業中
「ボク…今失業中なんです」
最初、下を向いて少し躊躇している様子の彼だったが、意を決したように顔を上げるとそう告げた。
ペンタさんの訴えたい事がまだ分からないので、私たちはしばらく彼の話に耳を傾けることにした。
「今の仕事は小さな会社の営業だったんですが、不景気のあおりを受けて倒産しちゃって・・・」
私たちが黙って頷くとペンタさんは話を続けた。
「ま、ホントに働きたい職種でもなかったから別にいいんですが・・・
ボク、今まで色んな仕事をして来たんです。コンビニとかソバ屋とか・・・ゲーセンもあったなぁ」
彼は遠い目をして寂しく笑った。
「ボク長男なんですが、父親が昔からボクにうるさくて全然理解してくれないし、
高校の時なんか言う事を聞かなかったり勉強をしないからと3度も携帯を折られたんですよ。
そんな事が続くうち、親父の喜ぶ事はしたくない!とボクも意地になってしまって・・・
親父の望みは大学進学でしたから、全く勉強するのを止めてしまったんです。で、結局ボクは家も出て」
「そうでしたか・・・ペンタさんはご自分の道を貫かれたんですね」とゆずが言うと、
「でもそれは結局、自分の逃げだったんじゃないかと・・・」
「大学へ行かなかったのは、親への反発を隠れ蓑にして勉強から逃げていたからだと?」
「はい。大学進学は別にどうでもいいんです。ただ、ボクがあの時親父に反発して勉強から逃げなければ、
今頃もっと自分に自信が持てたのかな?って」
「ペンタさんはご自分に自信がないんですか?」ゆずのとなりであずが聞いた。
「自信なんて全くないですよ。自分のこと情けない奴だと思っているし、
何をやっても長く続かないし、自分のこと甘やかしてきた自分・・・キライです」
「ペンタさんは学生時代、部活とかやってました?」突然、ゆずは別の事を聞いた。
「はい、中学から6年間剣道をやっていました。現在、剣道二段です」
「それはすごい!」私たちは同時に言って笑った。
「あとは?何か趣味みたいなものはありました?」
「う~ん別に・・・ テレビゲームぐらいかな?よく夢中になってやっていて親父に怒られたなぁ」
ペンタさんは昔を懐かしむように微笑んだ。
~ゆず&あずテレパシートーク(心の中での会話)~
ゆず「ペンタさん、自分に自信がないんだって」
あず「うん、でも何をやっても長続きしないっていうのは違うわよね」
ゆず「そうよ!6年間も剣道を続けて、しかも二段まで取っているんだもの」
あず「自分は忘れているみたいだけど結構頑張り屋で努力家よねぇ」
ゆず「TVゲームだってそうよね、夢中になれれば続く人なのよ」
あず「それに親に反抗して言いなりにならなかったんだから良くも悪くも信念を貫く人でもあるわ」
ゆず「そう!今度は自分の希望に向かって信念を貫けば、きっと素晴らしい事になっちゃうわよ」
あず「それにはまず自分への信頼を取り戻さないとならないわね」
ゆず「問題は、どうやって『努力家で頑張り屋』も彼の一面なんだという事を分からせるかよね」
あず「自分への信頼を取り戻せば、彼なら道を切り開ける力を発揮できる筈だものね」
※ ・・・ ※ ・・・ ※ ・・・ ※
あずが言った。
「もし時間を巻き戻せるならば、ペンタさんはいつの時代からどんな事をしたいですか?」
「ボク・・・高校時代に戻って、親父のために反抗するんじゃなくって自分のために必要な努力をしたいかな?
本当はボク、教員になりたかったんです。部活で剣道を教えたりして・・・」
「『自分のために努力をする・・・』素晴らしい言葉ですね」しみじみとした口調であずが言った。
「ボク…出来ますかね?」突然ペンタさんは顔を上げて私たちを見た。
ゆずはゆっくりと頷くとニッコリ笑って彼に言った。
「あなたは変われると思いますよ。でもその前に自分への信頼を取り戻さなきゃ」
「信頼?・・・自分への?」
「そう。それには、まず悪い面だけじゃなく良い面もキチンと知った上で自分を受け止める」
ゆずにあずも続く。
「そうすれば自分を信頼出来るようになるの。
例えば、親に反抗してまで教員になる夢をあきらめたペンタさんは、実はとっても意志の強い人」
「いや、でもそれは間違ったやり方だったから、ボクは・・・」
「ううん、例え違った方向でも意志自体は貫いたわけでしょ?
だったら自分のためにその力を使うなら、もっと意志を貫けると思わない?」
「あ!確かに」彼の目が大きくなった。
「まだあるわよ」今度はゆずが楽しげにあずと顔を見合わせると後を引き継いだ。
「テレビゲームだってそう」
「??」かれは不思議そうにゆずの顔を見た。
「テレビゲームを長く遊ぶとお父さんによく怒られたと言ってたけど、それって言い換えると、
ペンタさんって、好きな事や興味のある事なら集中出来るっていう事よね」
「だって、それは遊びだから」
「ううん、遊びならどんなものでも集中出来るとは限らないでしょ?好きじゃない遊びは続かないと思うわ」
「あ、そう言えば・・・」
「でしょ!遊びだから勉強だからという区分けはしないで
『良くも悪くもボクは好きなものには集中出来るんだ』と認める事が大切なの。
剣道だって長い間頑張ったでしょ」
「あ、はい」
「ペンタさん、心の中で自分にダメ出ししてない?」
「いつもしてます。自分に腹立ててるから…」
私たちは口を揃えて言った。
「それはダメよ、逆効果。今日から止めましょ!私たちはダメ出しを続けられると良くなることは出来ないの。
最後には自暴自棄になるか、あきらめるか、体も心も動けなくなってしまうのよ」
「・・・ ・・・」
「まずは自分の頑張って来た部分を認めてあげるの。
ペンタさんの場合なら、『剣道にも親父に反抗するときも、いつもお前なりに頑張ってきたよな』とか。
『何があっても仕事を見つけて働いてきたお前は “やるときはやる奴” じゃん』とかね」
「なるほどなぁ。今まで考えたこともなかった」と彼は面白そうに笑った。
「一人の時に、声に出して自分に言うのが効果的なの。
『何があってもオレはお前を見捨てないからな』とも言ってあげて欲しいなぁ」
ペンタさんは黙って頷きながら聞いている。
少しの間があって彼が口を開いた。
「今度の倒産も・・・意味があったのかも。
こんな事があったからボクは変わりたいとも思ったし、それに、ここにも来たし・・・」
最後は、自分に言い聞かせるようにつぶやいたペンタさんだった。
☆・・・☆・・・☆・・・☆
ペンタさん、本当は今が一番辛い時期だと思う。
今度は安定した仕事につきたいだろうし、何より充実感を味わう人生を手に入れたいだろう。
でも、だからこそ、今踏み止まって自分と向き合って欲しい。自分を認め愛してあげて欲しい。
その思いが彼の中のもう一人の自分に届いたとき、
内側から強い自分が立ち上がって歩き出すのを私たちは知っているから・・・
「変容したペンタさんの姿が見たいわね」と話しながら私たちも部屋を後にした。
この物語はフィクションであり、登場人物も含め、全て実在するものではありません










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